J・D・ロブ 『弔いのポートレート イヴ&ローク16』

弔いのポートレート (ヴィレッジブックス F ロ 3-16 イヴ&ローク 16)
 殺害され、路上のゴミ箱に押し込められていた女子学生の生前をとらえた写真が、犯人のメッセージと共に著名な女性レポーターの元に届けられます。その写真は隠し撮りで撮ったらしき写真だけではなく、殺されてからあたかも生きているかのような姿で撮られたポートレートも一緒でした。写真と画像処理の技術を持っており、そして純粋さに満ちた被害者の生の輝きに執着していると思われる犯人を追うNY市警の警部補イブですが、夫のロークが葬った過去のことで不安定になっていることで、事件以外の面でも動揺させられます。

 シリーズも16作目ということで、いい加減イブとロークの過去のトラウマ絡みの話の展開にはさほどの目新しさはないのですが、ロークの過去から出てきた一枚の写真と事件の犯人の撮った被害者の写真というキーアイテムを隠喩的な意味合いを込めて対比させることで、物語と登場人物の造詣に厚みを与えることに成功しているとの評価も可能でしょう。
 また本作は、死後に被害者の生の輝きと存在を永遠のものにするのだという犯人の異常性や、周囲の誰もに愛されて青春を謳歌していた被害者に襲い掛かる死の理不尽さに対する描写も過不足なく、小さな手掛かりを糸口に犯人を追う捜査の過程もしっかり読ませる作品であると言えます。
 ただ、これだけ手掛かりや犯人の心理状態への考察がなされているにも関わらず、あくまでもフーダニットにはならずに終わっているのは勿体ないという気もしてきます。さらに、事件の結末にしろ、イブとロークとの間の問題にしろ、予定調和のレベルで決着がついてしまっているという印象も皆無ではありません。
 とはいえ、最後の最後まで中だるみせずに緊張感に満ちたサスペンスと逮捕劇の演出は十分に楽しめますし、イブの天敵であり、猫につまずいて骨折した執事のサマーセットとのやり取りなど、シリーズ読者なら思わずにやりとさせられるユーモア溢れる展開もあり、起伏に富んだ1冊となっていると言うことは出来るでしょう。