リンダ・ハワード 『ゴージャス ナイト』

ゴージャス ナイト (二見文庫 ハ 7-17 ザ・ミステリ・コレクション)

 ジムを経営する美女ブレア・マロリーは、地元警察で警部補をしている恋人のワイアットに腹を立てています。彼が結婚の準備のための猶予期間としてブレアに示したのは、たった1ヶ月。その間にウェディングドレスからケーキや料理の手配から、招待客への招待状まで全ての準備を済ませなければ、最悪ラスベガスでいかにも簡易な式を挙げるか、事務手続きだけで結婚を終わらせると言う。さらに、カッカしながらもまずは気に入った靴を手に入れたブレアを、突然ショッピングモールの駐車場で彼女を轢き殺そうとする車が襲い掛かります。

 チアガール・ブルースの続編であり、終始著者には珍しい主人公一人称の文体を用いたテンポの良い作品。
 駐車場でのひき逃げ未遂に始まって、自宅に掛かる嫌がらせのような電話、ブレアの後をつける車など、主人公の視点に立てば何かが起こっていることは明白です。ですが、恋人のワイアットはストーカーの存在を訴えるブレアに対し、あくまでも確証のないことで警察は動けないと主張します。結婚を控えたカップルを描きながらも、こうしたシビアでリアルな展開を、二人のすれ違いやこの先結婚していけるのかという葛藤に綺麗に結び付けていると言えるでしょう。
 その意味では、ヒロイン・ヒーローの双方をきちんと作中に人間として存在させることに成功していると言うことも出来るかもしれません。
 気になる点としては、犯人の正体に関して何となく想像はついてしまう部分もありますが、それ以上に前作の犯人を作中であっさりばらしてしまっているという点でした。
 本作から読み始める読者というのはある意味少数派であるのも事実かもしれませんが、犯人の名前や事件の概要まで分かってしまうのは正直考えもの。
 もっとも、小説としては終始テンポ良く、強気な主人公たちの丁々発止のやり取りや、存在感の強い脇役たちの描き方も楽しめます。
 ただ実際の所一番首を傾げたのは、あのやたらに甘いクリスピー・クリーム・ドーナツプディングを作るという、いかにもアメリカ的な味覚に関してでしたが。