高田崇史 『QED 諏訪の神霊』

QED 諏訪の神霊 (講談社ノベルス タS- 22)
 毎回死者や負傷者を出す御柱祭、それとともに75頭の鹿の頭を捧げる御頭祭などの血生臭い神事の伝えられる諏訪大社にまつわる謎を追い、タタルこと桑原崇と棚旗奈々は諏訪へと向かいます。そこで待っていたのはタタルの中学時代の同級生の鴨志田と、かつての事件で知り合った緑川友紀子の妹の由美子、そして二人と同じ地区に住む百瀬麻紀でした。諏訪大社を巡り、そこにまつわる謎の手掛かりを探す五人ですが、諏訪に住む鴨志田らの家の近くで起こる、何かを見立てたかのような猟奇的な連続殺人事件もまた同時に進行していきます。

 本作の前に刊行された短編集『九段坂の春』で登場した鴨志田が登場したり、タタルが自身の過去を思わせぶりに仄めかすなど、シリーズとしての新たな展開も感じさせるものの、基本的にはいつも通りのQED。
 登場人物に関して言えば、本作では鴨志田と女性二人がゲストとして登場することもあり、小松崎や奈々の妹の沙織が出る余地はなかったので人数的にはいつもとそれほど変わらないものの、読者に認知されていないキャラクターを主人公らと歴史の謎解きをする側へと一気に投入したことでのある種の煩雑さも感じました。
 歴史の謎解きに関して言えば、例によって強引でこじつけとしかいえない説明という感じもするものの、一応物語の筋書きとしては破綻なく上手い構築をされていると言えるでしょう。ただし、シリーズもここまで回数を重ねると、どうしても展開される話のパターンは最初から見えてしまっていますし、特に今回斬新な物があったわけでもなく、その意味では「破綻が無い解釈」というだけに留まっているとも言えるかもしれません。
 また、現代の連続殺人に関して言えば、これまでのシリーズ中で何度も指摘されてきたような、「歴史の謎との関係性の薄さ」は回避しており、非常に上手く殺人事件と御柱祭の闇とを絡めていると言えるでしょう。
 ですが、諏訪大社の神事にまつわる謎との関わりを優先したあまり、逆に作中においてすら真相のリアリティが薄くなり、犯人があれだけの犯行を行うこととの動機に対する説得力は感じられなくなっているのが残念。
 それでも、その辺りの瑕もある種のバカミスとしては成立し得るのかもしれませんし、被害者を繋ぐミッシングリンクなども良く出来ていて、尚且つ歴史の謎の説明も最近のマンネリ化したパターンの中では比較的楽しめましたし、シリーズとしての掘り下げも僅かながら成されているという意味での評価は出来る一作でした。