カール・ハイアセン 『ストリップ・ティーズ 上/下』

ストリップ・ティーズ〈上〉 (扶桑社ミステリー)ストリップ・ティーズ〈下〉 (扶桑社ミステリー)

 娘の親権を別れた夫と争っており、そのための弁護士費用を稼ぐためにストリップダンサーとして踊るエリンですが、ある晩彼女に抱きついた男に対して、酔った男が暴力を振るいます。この騒ぎの加害者が選挙を控えた下院議員であったこと、そしてエリンに思いを寄せる常連客が下院議員の素性に気付いたことで、事態はスキャンダルの揉み消し工作のための殺人にまで発展します。

 『復讐はお好き?』ほどに洗練された印象はないものの、本作においても複雑に絡む人間模様と個性的な登場人物たちによって、テンポ良く事態が進んで行きます。
 自分の犯罪歴を巧妙に隠蔽して、逆にエリンの品位を貶める悪辣な元夫や色狂いの下院議員、その下院議員を使って利権を守ろうとするフィクサーのモルドウスキーなど、どこまでも救いがたい悪党の卑小さに加え、エリンの同僚のストリップ・ダンサーたちや支配人、そしてヨーグルトにゴキブリを混入して企業から大金をせしめる夢を見る用心棒など、ハイアセンお得意の味のある脇役が光っています。こうした人物描写に加えて、ストリップ・ダンサー達の世界を描いた猥雑な雰囲気の巧さは本作において特筆すべき点でしょう。
 また主人公のエリンは一貫して自分と娘のために動いており、それゆえに単純な「巨悪を暴く」政界陰謀物に終わらない小気味良さが良いアクセントになっている作品でもあります。
 デミ・ムーア主演の映画『素顔のままで』の原作となった作品だったようで、映画は見ていませんが表紙には見覚えがありました。