綾辻行人 『深泥丘奇談』

深泥丘奇談 (幽BOOKS)
 深泥丘に済むミステリ作家の主人公は、突然襲い掛かったひどい眩暈の検査の為に深泥丘病院に入院することになります。そこでどこからともなく聞こえてくる「ちっ、ちちち…」という声。この入院を機に、何かと深泥丘病院に通うことの多くなった主人公の前に、土地に根ざした不可解な出来事が次々に起こりますが、その記憶は曖昧なものとなっていきます。

 言ってみれば綾辻版の世にも奇妙な物語
 これまでの作品群に共通して流れていたような「悪夢」などの濃密な空気はないものの、「奇妙な物語」を楽しめるものでした。
 深泥丘という土地そのものに潜む「何だか分からないもの」との遭遇を繰り返し、著者自身とオーバーラップする所の大きい主人公自身の記憶が曖昧になるにつけ、日常と非日常の境も曖昧になっていきます。
 唯一雑誌『ミステリーズ』に掲載された「悪霊憑き」だけはミステリ寄りの作品となっていますが、どの作品も「何だか分からないもの」の正体を白日の元に明かすことが目的ではなく、むしろ謎が謎として存在することを許容する世界構築がなされていると言えるでしょう。その意味で、深泥丘という架空の土地を舞台とした世界の構築が、今後もさらに広がっていくことが期待されます。
 結構奥さんが怖かったりするのですが、さすがにそこら辺モデルは…。