法月綸太郎 『犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題』

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)
 クイーンの『犯罪カレンダー』に倣って、12星座の逸話に絡めた事件を扱った短編集。本書には牡牛座から乙女座までの6編が収録。

 何とも著者らしい――言い換えれば、どこまでも正統な本格ミステリの短編集。
 提示された手掛かりを追えば、作中の探偵の思考を辿ることが出来る、という本格ミステリのフェアネスの観点からも非常に高い精度に達した作品群であり、気楽に読める短編集というコンセプトに沿う物ながらも、どの短編も(実は作品によってはブレ幅も大きい)本家クイーン以上に安心して読める水準であると言えるでしょう。
 マニアック過ぎるほどの言葉遊びやギリシア神話のモチーフの織込みも見事であり、中にはそれひとつで短編の核を形成する謎足りうるものも惜しげもなく会話で使われる辺り、とても贅沢に思えます。
 論理的思考から導かれる推論は、提示される手掛かりによって一つ一つの可能性を潰し、絞込み…という過程が非常に鮮やかであり、犯人当てクイズからスタートした企画小説なだけにパズル性やゲーム性も高く評価出来る物でしょう。
 個人的ベストは蟹座の『ヒュドラ第十の首』。