石持浅海 『君の望む死に方』

君の望む死に方 (ノン・ノベル 845)

 ガンで余命半年を告知された会社社長の日向は、かつて共に会社を創業した、そして自分が過って殺してしまった男の息子である梶間に殺されてやることを決意します。そこで会社の有望な独身の若い男女を結び付けるために企画した別荘での研修を利用し、梶間が自分を殺す絶好の機会を与えます。ですが、梶間の他の参加者の行動や思惑が絡み合い、殺されるお膳立てをする日向にとっても、殺す機会を窺がう梶間にとっても、事態に少しずつ狂いが生じてきます。

 本作では、冒頭で事件が起こってしまうことが提示され、殺されるためにあれこれお膳立てをする日向と、殺すための機会を慎重に狙う梶間の双方の視点で物語は進められます。
 被害者と犯人それぞれが「殺す」「殺される」という結果を得るために知恵を働かせて行動するのですが、梶間以外の3人の参加者や日向が招いたゲストの目を意識しながらの計画は、少しずつ狂いが生じてきます。殺人を完遂させようとする犯人と被害者双方の思惑を他所に、表向きの「研修」の参加者同士の間では心理的な揺れが顕われ、それと同時に綿密に準備した殺害のための布石がひとつひとつ潰される過程を、緊張感に満ちた展開で描き出しており、最後まで一気に読ませられます。
 物語を牽引する三つの思惑は、それぞれの目的の為に他者の心理をあざとく操作しており、これらの意図が全てはっきりとした絵となって表われる終盤までの緩みのない展開が実に見事。
 梶間が日向に殺意を抱くに足る動機、そして一足飛びに日向も「梶間に自分を殺させてやる」という発想に至る動機の掘り下げはやや弱い気もしますが、それを補ってあまりある、特殊なシチュエーションを成立させる上手さや独特の引きのある読後感は一読に値するものでしょう。
 推理の緻密さやキレそのものよりも、あまりにもあざとい心理ゲーム、そしてその結末である静かながらも凄絶な結末の落としかたの上手さにも評価すべきものがある作品。