前田珠子 『天を支える者 罠は、蜜の味』

天を支える者罠は、蜜の味 (コバルト文庫 ま 2-76)
 主人公が故郷を出る元凶になった貴族の馬鹿息子が、都にやってきて彼女と遭遇してしまいます。かつて袖にされた腹いせとばかりに悪い噂を撒き散らし、挙句に主人公の少女の幼馴染にまでひどい仕打ちをしていたことがわかり、彼女らは復讐に打って出ます。

 復讐モノ、といっても、ライトノベルでかつシリーズの気軽な番外編なので、あくまでも軽いタッチでコミカルに描かれた中編集。
 表題作はさて置いて、同時収録されている『それは初夏の蒼穹の下』に関して言えば、作中作という形式を取ってはいるものの、本文と作中作部分との雰囲気の分け目があまりにも曖昧であることを指摘せざるを得ないでしょう。
 敢えて全文に近い形で作中作を書かないほうが効果的であった可能性もあり、悪い意味での「軽さ」「薄さ」を露呈してしまう結果となっている気がします。
 二編とも、どうも勢いだけで筆を進めるがゆえの荒っぽさを感じさせますが、中編・短編というボリュームで番外編に収録するには相応しい物語とは言えるかもしれません。