恩田陸 『酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記』

「恐怖の報酬」日記―酩酊混乱紀行 (講談社文庫 お 83-6)
 飛行機にどうしようもなく恐怖感を感じる恩田陸が、取材で憧れの地であるイギリスとアイルランドへ行くことになり、その恐怖感を紛らわすためとばかりに書き始めた著者初めてのエッセイ。恐怖感で暴走する妄想は果てしなく、ビールやワインをがぶ飲みしつつ、旅は進みます。
 本書は、紀行文としてよりもむしろ、随所に著者の妄想から芋づる式に伸びて行った先にある本や映画の話も散りばめられている辺りを楽しむのが正解というエッセイでしょう。旅先で読んだ本、妄想から思い起こす本や映画などを含め、作家恩田陸を形成する様々な部分が透けて見えるのが非常に面白いです。
 また、"酩酊混乱紀行"とあるように、どこへ行ってもビールを飲む、飲むというよりも楽しむという、味の分からない私などから見れば既にビールの達人という域。
 単行本収録のイギリス・アイルランド旅行がメインではありますが、その後雑誌に掲載された国内のビールメーカーの聖地見学紀行もあり、横浜のキリン生麦工場、札幌、沖縄のオリオンの3編が新たに収録されています。「その土地で飲むその土地のビール」こそが美味しいという主張はなるほどと思わされました。