三津田信三 『十三の呪 死相学探偵1』

十三の呪  死相学探偵1 (角川ホラー文庫 み 2-1 死相学探偵 1)
 幼い頃から人間の「死」を見る力を持つ弦矢俊一郎は、探偵事務所を開業して最初の依頼人を迎えます。ですが、婚約者を突然喪い、自らが「死神にとり憑かれている」と不安を訴える女性、沙綾香に、俊一郎は何も見ることが出来ませんでした。彼女の婚約者の突然死以降、一緒に暮らす元婚約者の親族たちの間では、階段から足を踏み外したり、突然像が倒れ掛かってきたりと、一つ一つを見れば些細ではあるものの、あまりにも頻発する事態に沙綾香は怪異を訴えます。そして二度目に俊一郎のもとを訪れた沙綾香の肌に、黒いミミズのようなものが蠢くのを見た俊一郎は、怪異が頻発するという入谷家を訪れます。

 死相が見える探偵を主人公に据えた、ホラー寄りのミステリ。
 三津田信三には珍しく、ライトノベルテイストのキャラクター主導型小説ではありますが、小さな怪異を繋ぐミッシングリンクなど、ミステリとしての基本構造はしっかりしたもの。
 通常のミステリにおいてであれば、犯人による「見立て」などの謎の意味付けに無理があると感じたりするような部分も、ホラーとしての設定によって本作ではすんなりと受入れられるものに仕上がっており、この点でも上手い処理をしたと言えるでしょう。
 ですが反面、ホラー要素に関しては、主に主人公の少年時代の回想部分で展開される怪異はいかにも三津田信三らしさを持っているものの、物語全体を通してみれば、基本的にはライトノベル的で「怖くないホラー」。設定そのものはホラー要素の大きなものでありながら、著者らしいねっとりとした「怖さ」は薄味であり、従来の読者には些か薄味で物足りなく思えるかもしません。ただその分、広く一般に受入れられやすいリーダビリティは備えていると言えるでしょう。
 全体的にあっさりとした感じはありますが、シリーズの一作目として次作以降への物語の基盤を読者に提示するという意味では、今後に期待が持てる作品でした。