ノーラ・ロバーツ/J・D・ロブ 『あの頃を思い出して』

あの頃を思い出して 第一部 (ヴィレッジブックス F ロ 5-1)
ある日レインが経営するアンティークショップに、見慣れない小男が姿を現します。何かを伝えたい様子のその男に心当たりが無かったレインですが、直後店の前で車にはねられた男の死の間際の言葉で、彼が幼い頃に良く会っていた"ウィリーおじさん"だと分かります。翌日、保険会社に雇われた探偵のマックスは、レインの店に客を装って現れて彼女に接近しますが、二人が食事をした晩にレインの自宅には空き巣が入り、彼女の身の回りに不穏な事件が起こり始めます。(『あの頃を思い出して 第一部』)
あの頃を思い出して 第二部 イヴ&ローク18 (ヴィレッジブックス F ロ 3-18 イヴ&ローク 18)
50年前の、祖父母のレインとマックスが体験したダイヤモンドの窃盗事件の物語を書いて人気作家になったサマンサが、宣伝やインタビューで各地を巡る半月の出張から帰宅すると、荒れ果てた自宅には留守番を頼んだ友人の女性が無惨な死体になっていました。この事件を担当する警部補のイブは、事件の背後には50年前に行方不明になったままの宝石が関わっていることを直感します。そしてイブは、狡猾で身勝手な犯人を追い詰めるため、50年前の事件をも探リ始めます。(『あの頃を思い出して 第二部 イブ&ローク18』)


半世紀の時間を挟むことで、近未来を舞台にしたイブ&ロークのシリーズのJ・D・ロブと、ロマンス作家ノーラ・ロバーツがコラボするという、かなりの力技を見せた作品(と言っても、もともと両者は同一人物なわけですが)。
とはいえ、第一部の現代編に関しては、些か展開に中だるみが見られることは指摘できるでしょう。中盤でマックスの狙いがはっきりとしてしまい、事件の根幹にあるものが明らかになってしまうことで、残りの半分は延々と事態を収拾するために費やされているという印象も否めません。
また、半世紀後の時間軸に設定された第二部の近未来編においては、序盤から第一部のネタバレが含まれている点も微妙と言えば微妙なところ。
ただ、第二部においては、第一部から読んでいる読者は、作中の捜査官達よりも事件の全体図を最初から頭に入れているということになりますが、そのこのとは必ずしも事件や作品のスリリングさを損なっていないという点は評価に値するでしょう。この第二部では単純なフーダニットだけではなく、犯人の姿が浮き彫りになるにつれて、その人格の歪みや異常性が徐々に明らかになる心理サスペンス要素を楽しめました。
一人の作家がわざわざ別名義にして第一部・第二部を書くという試みの企画力を買いたい作品。