コリン・ホルト・ソーヤー 『ピーナッツバター殺人事件』

ピーナッツバター殺人事件 (創元推理文庫)
 線路で轢死体となって発見された男は、高級老人ホーム「海の上のカムデン」の住人の一人であるエドナの婚約者でした。例によって好奇心から事件に首を突っ込むアンジェラは、エドナの義兄で彼女の会計士、死んだ婚約者とも付き合いのあったグレインジャー夫妻らに探りを入れます。

 シリーズ4作目、お馴染みのアンジェラとキャレドニアのパワフルな老婆2人に加え、本作では足の悪い紳士ブライトン翁も、利かない体で素人探偵に乗り出します。
 暴走するアンジェラは、事件ではマーティネス警部補に諌められ、事件以外でも、警部補の部下のスワンソンと、カムデンのウェイトレスのチータという恋人達の仲が何故かこじれていることに、持ち前の好奇心を発揮するものの、こちらはキャレドニアにも止められます。
 これら「海の上のカムデン」を中心とした場所で繰り広げられる人間模様は、好奇心で事件にのめり込んでいくアンジェラを通じて生き生きと描かれており、シリーズの魅力である傍迷惑なほどに元気すぎる老人たちをユーモラスに描き出しています。
 事件に関して言えば、単純にフーダニットだけを見るならば特に何のひねりもありませんが、被害者の過去やその姿が複数の証言から明らかになることで、犯人の自己中心的な本性を徐々に浮き彫りにしていく手法が、物語において効果的な演出になっていると言えるでしょう。
 本作だけを取り上げて評価するとなると、実は可もなく不可もなくという印象ではありますが、本来は老人ホーム「海の上のカムデン」を舞台にしているわけでもない殺人事件が、主としてこの個性的な老人達の生活の場である「海の上のカムデン」で繰り広げられる人間模様の中で解かれるというのは面白いところ。