倉阪鬼一郎 『紙の碑に泪を』

紙の碑に泪を (講談社ノベルス クL- 6)
 音楽業界、文筆業界など多方面で活躍していた被害者が殺された事件の容疑者には、クラシックコンサートに出かけていたというアリバイがありました。美しい犯罪、理想の犯人とのエレガントな対決を夢見る上小野田警部は、喫茶店で捜査資料と一編の翻訳ミステリ小説を読みながら、完璧なアリバイ崩しとその披露の舞台を用意して犯人を待ちます。

 作中作の『紙の碑に泪を』は、冒頭からミステリとしてもノワール小説としても非常に馬鹿馬鹿しいのひと言に尽きるわけですが、最終的にはパロディと分かっていても唖然とするほど、荒唐無稽なスプラッタホラーに終わります。これが作中において、何らかの仕掛けとなっていることは最初から予測できるものの、作者の意図が明かされるまではそこに思いは至りませんでした。
 その意味で作者の「仕掛け」は上手く行っているとは言えるのでしょうが、問題は本作が小説として面白いのかどうかという点に関しては、今ひとつ如何とも判断しがたいという辺り。
 作中作である『紙の碑に泪を』はまさにフィクションのためのフィクションであり、そのご愛嬌っぷりも含めて本作は、バカミス好きには楽しめる作風と言えるかもしれません。
 複数のブログからアリバイ崩しをするという趣向は面白いのですし、その論理展開も筋道立っているのですが、その辺りも全体のゆるーい空気に押し流されているので、かなり読む人を選ぶ作品であると言うことは言えるでしょう。