三津田信三 『凶宅』

凶宅 (光文社文庫 み 25-2)
 翔太は引越しの当日、何か得体の知れない嫌な感覚をしきりに感じます。両親と姉、そして妹と一緒に新居に向かいながら、それは新しい家に対するものであることが分かります。山を切り開いて造成された宅地の中、建設途中で放棄された家が不自然に残っている中で、一軒だけポツンとその家は存在していました。夜中に妹の元に訪れたという「ヒヒノ」という謎の存在、家のあちこちで見かける不気味な人影、それら山から来る忌まわしい何かの気配に、翔太は言い様のない怖れを抱きます。そして尋常ならざる体験の中で翔太が見つけたのは、その家に前に住んでいた少女の恐怖を綴ったボロボロになった日記でした。

 引っ越してきた家に何か禍々しいものを感じる小学生の少年という主人公の姿には、『禍家』にもかぶる部分は大きいのですが、前作ではそこに描かれる禍々しい物は「そこに居る」モノであったのに対し、本作で描かれるのは「山から家に来る」モノです。
 また本作では、主人公の少年の友達の名前に共通の物があることから、『禍家』との世界のつながり、そして百蛇堂・蛇棺葬とのつながりを匂わせる箇所なども見られ、これまでに三津田作品を読んできた読者は思わずにやりとしてしまう部分があるでしょう。
 初期作品や「〜の如き」シリーズに比べると本シリーズは、(年齢に不相応な思考をするとはいえ)子どもの視点であることなどもあり、良質なホラーとして広く一般に薦められるリーダビリティを持っていると言えるでしょう。また、子どもだけが感じられるその「場」に潜むものから受ける恐怖感を描くという部分では、著者はお手の物であり、独特の生々しい怖さは本作においても味わえます。
 そして、著者お得意の禍々しく絡みつくような濃密な雰囲気に加え、ミステリ的な謎解きの要素も無理なく作中に組み込まれており、ミステリ要素をアクセントに効かせたホラーとして、本作はコアな三津田ファンにもそれ以外にも楽しめる作品となっています。
 全てが合理的に腑に落ちない部分が残される気持ち悪さも、ホラーならではの嫌な感じを良く演出しており、最後の「羊のハネタ」が残す読後感もいかにも「らしく」て好きです。