荻原規子 『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』

RDG レッドデータガール  はじめてのお使い (カドカワ銀のさじシリーズ)
 バスも通っていない山奥の神社で生まれ育った泉水子は、中学三年になり、仲の良い友人に高校では寮に入ったらどうかと言われて、改めて自分が周囲の「普通の女の子」とは違ってしまっていることに気付きます。もっと人の中に入って「普通」になるために、地元の高校へ進学して寮に入る事を祖父に相談する泉水子ですが、アメリカに住む彼女の父親は、東京にある高校への進学をさせる事を考えていると言います。勝手にそんなことを決められていたことに憤慨する泉水子の前に、父親の友人の相楽が現れ、彼の息子の深行を泉水子に付き従わせるために置いて行きます。何の取り得もなく、内気で自分では何ひとつ出来ないような泉水子のせいで勝手に進路を左右されたことで、深行は彼女に辛く当たりますが、どうやら泉水子の血筋は特殊なものだったようで…。

 現代を舞台にしたファンタジーとして、非常に良質な作品。
 進路という大きな人生の転換点を前にして、初めて変わろうと動き出す少女のぎこちなさや、彼女の意志を無視して勝手な事を言う周囲への苛立ちが、何とも瑞々しい筆致で描かれます。同時に、年齢に不相応なほどに優秀で何でもできる少年である深行の、泉水子への苛立ちや怒りも非常に説得力を持っており、二人が徐々に歩み寄る過程もこの上なく自然な形でありながら、起伏の多い物語として描かれます。
 長編シリーズの第1作としては、物語の始まりを主人公の泉水子の「変化への目覚め」をきっかけに綺麗な立ち上がりと、物語の目指す先の予感をキッチリ描いていますし、同時に本作単体としても、ただ何も考えずに守られていた子ども時代から少女としての目覚めを見せる主人公たちの成長の物語として、実に「読ませる」作品です。
 また、特別な血筋を持ち不可思議な現象を起こしてしまうという主人公泉水子の設定など、物語の中核にはファンタジー要素はあるものの、あくまでも彼女は自身のアイデンティティに悩む中学三年生の少女として等身大に描かれます。少女の現実や日常が細やかに描かれた上での非現実の物語であるゆえに、本作は浮ついたファンタジーとは一線を画すものとなっていると言えるでしょう。
 この先の物語が描かれることに期待を持ちたい1冊。