ナンシー・アサートン 『優しい幽霊1 ディミティおばさま現わる』

ディミティおばさま現わる (ランダムハウス講談社 ア 5-1 優しい幽霊 1)
 離婚、生活の不安、大好きな母の死という不幸続きのロリのもとに、弁護士からディミティおばさまが亡くなったという報せが届きます。ですがロリの知る「ディミティおばさま」とは、幼い頃から母が彼女に話してくれた大好きな物語の主人公でした。ディミティおばさまが実在の人物であったことに驚くロリは、遺言を果たすためにイギリスのおばさまの家に向かいます。死んだ母の手紙によれば、ある写真にまつわる過去にディミティおばさまは酷く苦しんでいたと言うのですが、それについてディミティおばさまは誰にも何も語ろうとしなかったと言います。

 シリーズタイトルにあるように、本作においては「ディミティおばさま」は幽霊として登場はするものの、優しく迎えて見守ってくれはしてもあくまでも物語の着地点が「幽霊の救済」であるというのは、本作のひとつ面白いところでしょう。その意味では本作における「幽霊」は、生きた人間にはない特殊な力を発揮してくれて、主人公のロリたちが求める謎の手掛かりも解答を示してくれるような都合の良い存在ではありません。
 過去のもつれた糸を解くのはあくまでも現在生きている主人公たちであり、ロリ自身の人生の苦しみと彼女の母親の苦しみ、そしてディミティおばさまの苦しみがオーバーラップしながら結末へと向かっていく展開は終始テンポ良く進んで行きます。
 主人公のロリと、そして彼女の母を救ってくれた「ディミティおばさま」の物語の根底にある、それを伝える相手を元気付けようという優しさは本作全体にも満ちていると言えるでしょう。
 女性向け、安直なハッピーエンドと言ってしまえばそれまでですが、物語だからこその優しさに満ちた1冊として安心して読める作品。
 本書だけでも十分に完結しているように思いますが、シリーズは本国ではすでに14冊が刊行されており、この先邦訳も進められるもよう。