桜庭一樹 『推定少女』

推定少女 (角川文庫 さ 48-2)
 止むを得ない状況から義理の父親を傷付けて逃亡することになってしまったカナは、逃げる途中のごみ溜めで記憶喪失の少女を見つけます。何故か拳銃を持っていたその少女は記憶喪失らしいのですが、自分が宇宙人だと主張します。「白雪」と名付けた彼女とカナは、狭い町を出て東京を目指し、逃亡を続けます。

 少女VS大人、少女VS社会という図式を、最も荒削りに描いた桜庭一樹の初期作品の新装版。
 以前にファミ通文庫版は読んでいますが、新装版として角川文庫から出た本作は、結末がマルチ・エンディングのようになっています。ひとつは以前に刊行されたままのものですが、この「戦場」と題されたもののロングバージョンの「安全装置」に加え、著者が最初に書いたものの実際には使用されなかった「放浪」の3つの結末用意されています。
 それぞれの結末のサブタイトルは端的に主人公カナの行く末を表しており、最初に書かれたという「放浪」は、最も過酷な結末ではあるものの、少女が少女のままその存在を社会や大人によって変質させられることがない、ある意味ネバーランド的な場所への着地点であるということは言えるかもしれません。
 それに対し、実際に使用された「戦場」は、カナが「少女」という存在を許容しようとしない彼女を取り巻く社会へ戻っていく喪失の物語と言えるでしょう。そして「その先」までをも描いた「安全装置」が「戦場」と異なっている点は、主人公カナがこの物語の終わりの時点で完全に自分の中の「少女」との断絶をしなくとも許されているという点でしょう。著者が『荒野』で描いたように、緩やかに変質していく少女性をカナ自身が許容する猶予を与えることで、最後の3つ目の結末がもっとも穏やかなものとなっている気がします。