ニューヨークに到着した男女がタクシーでさらわれ、まずは男性が薬指の肉を削ぎ落とされた状態で生き埋めにされるという、残忍な遺体となって発見されます。この事件を受け、NY市警は、事故で半身不随になり首から下は指しか動かすことの出来ず、ひたすら死ぬ方法を模索していただけの元科学捜査官のリンカーン・ライムに協力を依頼します。嫌々ながらもベッドから事件の捜査の指揮を取ることになったライムは、男性の遺体が発見された時にただ一人適切な判断で現場を封鎖した、巡査のアメリア・サックスを自らの手足にして、僅かな手掛かりから犯人と連れ去られた被害者を捜し始めます。
リンカーン・ライムのシリーズの第一弾で、映画にもなった作品。
映画は以前何度か見たことがあるので、当然要所要所のシーンは記憶にありましたが、ライムの鬱屈した思いや彼とアメリアの葛藤、そして犯人を徐々に追走していく物語運びを楽しむ上では、映像作品による先入観も全く問題は無かったように思います。
四肢の麻痺した世捨て人となっていたライムは、アメリアという彼の目であり手足となるパートナーを使い、科学捜査を用いて犯人に迫っていくわけですが、最新の科学捜査とテクノロジーを駆使することで、単なる安楽椅子探偵とは異なり、リアルタイムで捜査に参加することとなります。その意味では、警官としての経験も実績も浅いアメリアと、体を動かすことの出来ないライムというコンビの捜査にはもどかしさや、安楽椅子探偵物特有の犯人とのリアルタイムの直接対決がないゆえの緊迫感の薄さといったものは、本作では無縁のものとなっていると言えるでしょう。
もっとも、ライム(アメリア)と犯人との対決という構図は結末部に近いところまではほぼゼロであったがために、犯人が明らかになるその瞬間からの展開には、多少の唐突な感じも受けます。
ですが、際立った残忍な犯罪描写と、理不尽に殺されようとする被害者の視点などを盛り込むことで緊張感が常に保たれる中、ライムの絶望と葛藤、それに挑むアメリアの奮闘が適度に盛り込まれることで、絶妙な緩急が盛り込まれた本作のリーダビリティの高さは特筆すべきものでしょう。
登場人物の配置や、犯人と被害者を追う緊迫感のある展開の良さなど、(映画を先に見ているという先入観を抜きにしても)文章から浮かぶ映像的な要素の高い一作。