ジェフリー・ディーヴァー 『コフィン・ダンサー』

コフィン・ダンサー〈上〉 (文春文庫)コフィン・ダンサー〈下〉 (文春文庫)
 武器密輸事件の証人の一人が、自らの操縦する飛行機に爆弾を仕掛けられて爆死します。この事件の実行犯が、"コフィン・ダンサー"と呼ばれる殺し屋であることから、リンカーン・ライムはアメリア・サックスを手足として捜査に乗り出します。ベッドから指揮を取るライムは、かつて部下を殺された因縁のある"ダンサー"を科学捜査を武器として追いかけ、そして罠を張りますが、"ダンサー"の手は確実に生き残った証人に迫ってきます。

 四肢が麻痺した元警部補、科学捜査の天才であるリンカーン・ライム・シリーズの第二弾。本作ではライムの追撃をことごとくすり抜ける強敵として、"コフィン・ダンサー"という殺し屋が用意されます。
 随所に挿入される殺し屋の視点では、「おい新兵」「イエスサー」と、彼の中で上官たる人格と腕利きの新兵としてミッションを遂行する人格の一人芝居がなされます。そして、残虐な犯行を淡々と、しかも完璧に遂行するこの殺し屋の不気味さすらも、後半での伏線として生かされているのが、本作の大きな読ませどころと言えるでしょう。
 科学捜査の証拠集めのために、現場を景観に荒らされることを嫌うライムをして、自らの手足のサックスよりもSWATを先に現場に送り込もうとさせる"ダンサー"の不気味さ、そして小さな手掛かりから"ダンサー"を追跡するライムの頭脳による戦いが巧みな展開で描かれます。
 さらには、ライムに対して特別な感情を持つサックスが、生き残りで保護されるべき証人の女性とライムとの間に流れる空気に苛まれるくだりも挿入され、主役二人のシリーズキャラクターを中心に読む楽しみも広がっていると言えるでしょう。
 そしてライムとサックスの捜査が、確実な手掛かりひとつも残さなかった"ダンサー"に迫った時、強敵としてライムを意識する"ダンサー"との戦いは新たな局面を迎えます。互いを敵として認識する両者は追う者と追われる者として、間一髪の攻防を繰り返します。ですが、それすらも終盤でのどんでん返しに利用される徹底した作り込みが、本作を良質な娯楽たらしめていると言えるでしょう。