望月守宮 『無貌伝 〜双児の子ら〜 』

無貌伝 ~双児の子ら~ (講談社ノベルス)
 無貌という名の怪、"ヒトデナシ"に顔を奪われた探偵の秋津のもとを、親に捨てられて一人で生きざるを得なかった少年の望は、ある野心を持って訪れます。ですがあっさりとそれを看破され、成り行きで探偵助手をつとめることになった望は、依頼のあった榎木家に秋津とともに向かいます。依頼内容は、無貌から襲われる可能性のある娘の芹を守るというものでしたが、榎木家の後継を決める親族らの集まりの席に不気味な影が現れます。榎木家に憑いているヒトデナシの未来視の力でなされたという不吉な予言に従うかのように、次々と事件は起こりますが、秋津は殺人事件の捜査に首を突っ込むことを頑なに拒みます。

 第40回メフィスト賞受賞作。
 ヒトデナシという人外のものが横行し、どこかレトロな空気を感じさせる退廃した世界を描き、その枠組みの中でいわくのある閉鎖的な旧家での殺人事件というミステリを描いた探偵小説。根底にある枠組みはあくまでも人外の怪異を許容するファンタジー・伝奇小説でありながら、描かれる事件はどこまでもオーソドックスな探偵小説であると言えるでしょう。
 こうしたファンタジー・伝奇小説とミステリの融合という点では、本作はその独特の世界観を生かした謎の構築と解明をなし得ているという意味で、一定の評価を出来るものとなっています。ファンタジーとして、あるいはミステリとしてそれぞれを個別に評価するとなると、どちらも「薄い」という印象を持つにも関わらず、両者を融合させることで極めて絶妙なバランスを取り、高いエンターテインメント性を確立しているのは特筆すべき点。キャラクターにしろ、トリックにしろ、一つ一つの要素は決して突出したものはないものの、しっかりとした独自の世界観を生かし手堅く纏めた良作として評価出来ます。
 また、本作の中核をなしている探偵のジレンマも物語を盛り上げており、これをシリーズの滑り出しに持って来たところには、著者の上手さも感じられます。
 今後のシリーズ展開を期待できる1作。