平山夢明 『独白するユニバーサル横メルカトル』

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)
理不尽な扱いを受ける少年が、汚らしい老人に対して残虐さを芽生えさせる『C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆』。
"元サーカスの大食い男"である巨漢の世話をすることになった元数学者が、その類稀な知性を見せる巨漢が見せる世界へと堕ちていく『Ωの聖餐』。
義理の父親の虐待に耐えかねた少女が、絶望の中で連続殺人事件の犯人に会いたいと願う『無垢の祈り』。
芸術というものが禁止された未来の世界で、違法に芸術を愉しむ者とそれを取り締まる者とを描く『オペラントの肖像』。
女性捜査官に捕らえられた殺人鬼が、隣の房で呻き声を発する男が未解決の事件の情報を引き出そうとしているのだと察しながら、取引に訪れる女性捜査官やその背後にいる者たちに挑む『卵男』。
怪しげな金儲けの話に釣られて熱帯の国の奥地へ赴いた主人公たちが遭遇する、血みどろの地獄絵図のような『すさまじき熱帯』。
地図によって語られる、"主人"の狂気の軌跡を描く表題作『独白するユニバーサル横メルカトル』。
"獲物(ゲスト)"として連れて来られた女に苦痛を与える拷問係が、「ロマンス」を求めるという女によって、彼の根底にある両親というトラウマを引きずり出される『怪物のような顔(フェース)の女と溶けた時計のような頭(おつむ)の男』。

 過剰なまでの醜悪さと悪趣味によって装飾された短編、全8編。
 血と腐臭と暴力に満ち、どこまでも生理的な不快感をかきたてるがゆえに、明らかに読者を選ぶ作風。そのくせ悪趣味な諧謔の中に麻薬にも似た何かがあり、それが読者に猛烈な後味の悪さと何ともいえない読後感を残すのかもしれません。
 どれも一貫して理不尽とエログロ的な血生臭さを漂わせつつも、地図を擬人化した表題作は着想の面白さと落としどころの完成度の高さ、『卵男』のようなサイコスリラー、『Ωの聖餐』で描かれる醜悪さの中にある崇高さなど、良い意味での振り幅の広さを見ることが出来る作品集。
 ただ、単純に好きか嫌いかと言われれば、生理的に受け付けないという人の方が多数といった持ち味であるのは事実でしょう。