島田荘司 『透明人間の納屋』

透明人間の納屋 (講談社ノベルス)
 水商売の母親と暮らすヨウイチは、隣で印刷工場を営む真鍋さんのお陰で寂しさを感じることなく育ちます。真鍋さんや母親の知り合いの真由美という女性が婚約者と過ごしたホテルから忽然と姿を消す事件を起こした時、ヨウイチは真鍋さんが語った「透明人間」の存在を思い出します。

 "かつて子どもだったあなたと少年少女のための"ミステリーランドから刊行された作品。
 「子ども向け」ということをどの程度意識しているか(あるいはそれがどの程度功を奏しているのか)はさておき、「子どもが受け止める世界」と大人が向き合っている世界は必ずしも同一ではないという部分は、間違いなく本作の中に描き出されていると言えるでしょう。
 ヨウイチにとっては実際の親以上に影響力を持った大人、真鍋さんの語る世界は鋭く本質を突きながらもどこまでもヨウイチに対して優しく、それでいながら真鍋さんが現実に生きる大人であるがゆえの哀しみを孕んでいます。
 人間消失のトリックに関しては、今ひとつ鮮やかさに欠けるものでしたし、子どものヨウイチには見えなかった事件の背景について読者は、薄っすらと予測出来てしまう部分はあったように思います。
 ただ、子どものヨウイチが信じていた世界が、少年が大人になった時に絵解かれて変貌を遂げる姿は、決して劇的ではないが故に深い哀しみを伴った読後感をもたらしているということは言えるでしょう。
 作中で語られる「透明人間」という存在を表す言葉に込められた意味が、何とも切ない作品でした。