アリスン・ブレナン 『ザ・キル』

ザ・キル (集英社文庫)
 5歳の時に姉のミッシーが男に誘拐される場面に居合わせたオリヴィアは、これまで34年間、犯人が仮出所をしそうになるたびに裁判所で反対の陳述を繰り返してきました。ですが、最新のDNA鑑定の結果、犯人だと思っていた男のDNAとは一致せず、真犯人が別にいることが分かります。苦悩しながら調べた結果、全米で同一犯と思われる事件が30件近くもあり、真犯人が野放しになっていることを知ったオリヴィアは、身分を偽って現在事件が起こっているシアトルの警察と協力して自ら犯人を追い詰めようと心に決めます。

 そもそもがFBI捜査官の身分を騙るのに、(オリヴィアが半ば身内のFBIの研究員という身分であったとしても)たった一人の協力者だけで現地警察を騙せてしまうものなのかという部分には若干の引っ掛かりを覚えますが、いわゆるノンストップ・サスペンスタイプのエンターテインメントとしてはリーダビリティも高く、テンポの良い展開で読ませるだけの1作ではあります。
 児童を狙う犯罪者の異常な姿が徐々に浮き彫りにされていく展開には、犯人の残虐性・異常性ともにキッチリ描かれていますし、第一作に比べると格段に「犯罪者」と「被害者」を描く力量を評価することが出来るでしょう。
 難を言えば、冤罪の被害者となった男のキャラクターと逆恨みの行動によって、冤罪そのものの重さが薄れている部分では、若干首を傾げないでもありませんし、終盤ではやや詰め込みすぎた挙句に力技の結末に持って行ってしまった印象もあります。