万城目学 『鴨川ホルモー』

鴨川ホルモー (角川文庫)
 葵祭のエキストラのバイトの帰りに、阿部は「京大青竜会」なる、大学のサークルの勧誘のチラシを受け取ります。そして同じ1回生の高村と共に行ったそのサークルの飲み会で出会った早良という女学生に一目惚れします。ですが、早良に会いたいがために入会した「京大青竜会」は、一千年の昔から密かに受け継がれてきた「ホルモー」なる戦いをするための組織でした。

 ファンタジーでもないし伝奇でもない、単純に青春小説と言ってしまうのも今ひとつピンと来ない気はしますが、徹底した娯楽の追及を成し遂げており、とにかく個性的で独特の勢いのある作品。
 主人公の阿部の、ともすれば覇気のないニュートラルさと、高村のぶっ飛び具合、凡ちゃんこと楠木ふみの存在感、そして思わせぶりな早良といけ好かない芦屋、食えない先輩のスガ氏、そしてどこか謎の『べろべろばあ』の店主など、登場人物も個性的で魅力に溢れています。
 そして、何とも良いバランスで脱力する部分と弾ける部分が組み合わせられることで生まれるユーモアや、一転してスピード感溢れる戦いの駆け引きもあり、何とも絶妙の緩急の組み合わせにより、極上のエンターテインメントを確立していると言えるでしょう。
 高いリーダビリティによって引き込まれる、得体の知れない作品世界は不思議なパワーに満ちています。