マーシー・ウォルシュ/マイクル・マローン 『殺人倶楽部へようこそ』

殺人倶楽部へようこそ (文春文庫)
 生まれ育った小さな町で刑事として働くジェイミーに、高校時代からの友人のベンが話したいことがあると言ってきます。ですがジェイミーがベンに会う前に、ベンは自宅が火事になって焼け死んでしまいます。この訃報を他の友人に伝えたところ、彼らが高校時代のクラブで書き綴ったノートにある、殺人トリックを用いてベンは殺されたのではないかという疑惑が浮かび上がります。事件を機に再び顔を合わせた、かつての「殺人倶楽部」のメンバーの中に殺人者はいるのか、それともノートを見た何者かによって殺人が行なわれているのか。

 高校時代に仲間たちと共に遊び半分で書いた、「死の書」と名付けた殺人ノートに各人が記したのと同じ方法でメンバーが殺されていくという、実に魅力的な舞台立てが本作には用意されています。
 ただ惜しむらくは、この舞台立てが田舎町の煩雑な人間関係の中に埋もれて、若干ぼやけてしまっている印象があることでしょうか。
 「いかにも」な色男でジェイミーもかつては熱を上げていたガースと、誰もが認める美人のアマンダとの関係や、ジェイミーの死んだ姉と結婚していたいけすかないバークレーとの関係、そしてジェイミーの上司であり婚約者でもあるロッドとの関係など、主人公の個人的人間関係に割く割合が多いことで、事件そのものの展開には若干の中だるみが感じられるように思います。
 葬られていた過去に事件の根幹があるという大きな枠組みも、見立て殺人というガジェットも本来もっと魅力を発揮し得るだけに、やや中途半端さが勿体ない1冊でした。