鳥飼否宇 『人事系シンジケート T‐REX失踪』

人事系シンジケート T‐REX失踪 (講談社ノベルス)
 会社を欠勤している女子社員の欠勤の理由が、社内の誰かによる悪質な嫌がらせの可能性があるとして、玩具メーカーの人事部の物部真治は、この女子社員に面会に行くことになります。さらには会社が力を入れて開発した恐竜のロボットが開発部内部の何者かによって盗まれたと思われる事件が起こったり、会長夫人のペットのポチ探しにまで、ちょっとした特殊能力を見込まれて「特殊案件」を担当する真治はかりだされることになります。

 鳥飼否宇というと、初期の『非在』や『中空』のように、全体の印象は今ひとつ地味ながらもアクロバティックな謎解きに挑んだ作品と、読み終わってどうしたら良いのか分からなくなるくらいに弾けまくった『痙攣的』などの両極端な作風のイメージがありますが、本作はそのどちらにも属さないということは言えるでしょう。
 むしろ、著者の作品の中では異色といえるほどに、普通にエンタメしているライトなミステリであり、良く出来てはいる物の、この著者に対するある種の期待を抱いて読むと若干肩透かしを食らう可能性は否定できません。
 とはいえ、テンポ良く進む物語も、登場人物のどこかゆるいやり取りも楽しいですし、ライトなミステリとしては普通に面白い作品。そして、主人公の真治の「特殊能力」の作品への取り入れ方には無理はないですし、個別の出来事のつながりの綺麗さ、そして終盤でそれが伏線として生きてくるあたりなど、実に端整に作られた作品であることも事実でしょう。さらにはエピローグ部分で語られる事実によって、読み手がそれまで思い描いていた絵がガラリと変わる鮮やかさもあり、一見して薄味な雰囲気に反してしっかりと作り込まれた部分なども、実は評価すべき長所であると言えるでしょう。
 リーダビリティも高く、キャラクターも薄味ながらも割と誰にでも受け入れられやすそうな感じはしますし、今後のシリーズ展開があるのならば、それはそれで楽しみな作品。