東川篤哉 『館島』

館島 (創元推理文庫)
 瀬戸内海に浮かぶ孤島の横島で、六角形の館を建てた天才建築家が、謎の墜落死をします。そして移動されたと思わしき遺体がどこから墜落したのか、どこに墜落したのかも分からないままに半年が過ぎます。刑事の相馬や女探偵の沙樹は、勢ぞろいした事件関係者と共に、建築家の未亡人によって館に招かれます。ですが、そこで新たな殺人が起こってしまい、さらには嵐で警察の到着も遅れることになってしまいます。館の女主人に依頼を受けた探偵の沙樹とともに、相馬も上司から受けた現場保存の命令に従いつつ、事件の捜査をはじめます。

 著者特有のユーモア感覚が読者を選ぶ部分は相変わらずとはいえ、孤島の館ものならではの、オーソドックスでありつつ大掛かりなトリックを十分に楽しめる一作。
 メインのトリックに関しては、残念なことに序盤からの伏線から、ある程度読み慣れた読者には想像がついてしまう可能性が高いかもしれません。ですが、80年代という作中の時間軸の設定、この瀬戸内海に浮かぶ横島という場所の設定が不可欠であった「仕掛け」が実に秀逸。死んだ建築家の壮大な意図が明らかになった時の「絵」は、そこに至るまでに交された「橋」と「島」の関係の会話が突然に生きてくる鮮やかさもあり、大掛かりな物理トリックによる死の謎以上に魅力的な謎でした。