山口雅也 『新・垂里冴子のお見合いと推理』

新・垂里冴子のお見合いと推理
 垂里家にかかった呪いのせいなのか、必ず何か事件が起こってお見合いが纏まることのない長女の冴子を家族は案じます。そこで冴子の父親は、仕事関係で有望な研究員であり、現在は水族館に勤務している若者を冴子のお見合い相手の白羽の矢を立てます。ですが、お見合いの当日に一家の前に現れたのは、一羽のペンギンでした。また、一向に成果の見えない小説ばかり書いていて、結婚の見通しの立たない姉に痺れを切らした次女の空美もまた、友人の伝手を辿り、日本で私立探偵をしている外国人と冴子のお見合いをお膳立てするのですが…。

 久しぶりのシリーズで、まずは何と言っても垂里家の面々に再会できたことが嬉しい1冊。物語の中ではゆるやかに時間は流れているものの、相変わらず冴子は良縁に恵まれず、お見合いをすれば事件に巻き込まれ、家族の面々もそれぞれ「相変わらず」な様子が窺がえます。
 シリーズ読者にとってはそれだけでも十分であるのですが、さらに本書の第二部『神は寝ている猿』では、『日本殺人事件』シリーズの登場人物までコラボされるという贅沢な仕様。
 収録された中編2編とも、使われるトリックはさほど大掛かりなものではないものの、その手堅いまでのスタンダードさと、登場人物がかもし出すユーモラスな空気が融合するという、シリーズの性格をそのまま継承していると言えるでしょう。
 第一部の『見合い相手は水も滴るいい○×△?』においては、さほど難易度は高くはないものの、消失の謎が何とも可笑しなシチュエーションの中で展開されます。そして、ユーモラスな空気の中でも冴子の推理は冴え、結末部では彼女の内包する厳しさのようなものも覗いたりと、小さく纏まった作品ながらも緩急つけた物語構成を楽しめます。
 第二部では意外といえば意外な人物との競演が見物ですが、あちらのシリーズとは物語を包む空気のテイストが違っているはずなのに、パラレル日本の設定を若干緩め、物語の語り手たる視点が『日本殺人事件』とは変えられていることで、両者は違和感なく同一作品世界に共存することが可能となっていると言えるでしょう。さらに、その中で展開されるダイイング・メッセージの謎には、『日本殺人事件』の持ち味のひとつである、「日本文化の独自性」とでも言うべきものもしっかり織り込まれており、二つのシリーズのコラボレーションの成功という意味合いでも評価したい作品となっています。