美貌の殺人鬼グレッチェン・ローウェルに心身ともに囚われた刑事のアーチーと共に、スーザンが関わった事件から数ヶ月。スーザンは、大物上院議員のキャッスルの未成年者への性的虐待の記事を書き上げます。ですが、まさにその記事を出そうとする直前、スーザンの上司とキャッスル上院議員が車の事故で死亡します。この事件に不可解なものを感じたスーザンですが、新たに彼女の上司となった男は上院議員の死に同情的な世論の中、スーザンの記事を出すわけには行かないと言って来ます。さらに、グレッチェン・ミッチェルの最初の事件とされる少女の遺体が発見された現場でアーチーが見つけた遺体が、キャッスル上院議員に関連する人物であることが判明します。その捜査のさなか、アーチーは、刑務所にいるグレッチェンの新たな動向が知らされ激しく動揺します。そして司法当局を嘲笑うかのように脱走するグレッチェンは、再びアーチーにコンタクトを取ってきますが…。
前作に引き続き、主人公は刑事のアーチーと記者のスーザンという形は取っているものの、作中での出番の割合や視点の有無に関わらず、最も存在感を示すのが殺人鬼のグレッチェン・ローウェルであり、本作は魅力的な殺人鬼を描き出すことに成功したシリーズと言えるでしょう。
作中でグレッチェン自身が語るように、男性の支配と暴力によって癒し難いトラウマを負わされる以外に、「女は自分自身だけのファクターによって、人殺しという存在になることが出来ない」という意味で、女性のシリアルキラーというのは現実においてもフィクションにおいても、ごく限られたものであったと言えるでしょう。そうした部分では、本シリーズで描かれるグレッチェン・ローウェルという存在は実に魅力的であり、彼女とアーチーとの歪んだ関係を本作においては前作以上に生々しく描き出すことに著者は成功しています。
また、優秀な刑事として描かれる一方で、心身ともに病んだ廃人同然のアーチーを描き出すことで、彼に影響力を振るい続けるグレッチェンの「力」を描くという、実に興味深い点が本作においては前作以上に浮き彫りにされています。
そして、事件の真相という部分では、決して大きなサプライズがあるわけではありませんが、中盤以降の急展開に次ぐ急展開には一気に読ませられる力を備えていると言えるでしょう。