北村薫 『語り女たち』

語り女たち (新潮文庫)
 夢想家の男が海辺の街に借りた小部屋に、次々と訪れた女たちが語るとりとめもない物語を綴った、全17編の掌編集。
 隙のない文章で綴られるそれぞれの物語は、語り手たるそれぞれの物語の主人公たる女性を通して、話を聞いている男と同様、読者にもノスタルジックな幻想の世界を垣間見せます。そこで描かれるのは、ありふれた日常の片隅に潜むノスタルジーであり、あからさまに「幻想小説」と呼ぶことの出来るものはさほど多くはありません。
 間断なく続けられる17編の物語は、前の物語と微かにキーワードで結び付けられており、そのゆるやかな結びつきこそが本書の幻想風味を際立たせている部分もあるのでしょう。