アダム・ファウアー 『数学的にありえない 上/下』

数学的にありえない〈上〉 (文春文庫)数学的にありえない〈下〉 (文春文庫)

 確率からいって負けるはずがないと踏んだギャンブルで負けて、1万1千ドルの借金を負った数学者のケインは、癲癇の発作に倒れます。そして、その治療の過程で備わったある能力によってケインは、政府機関から負われることになります。ケインは、彼を助けたわけありのCIA女性工作員のナヴァとともに、追っ手から間一髪で身をかわし続けますが…。

 確率論と量子力学というガジェットを用いたSFノンストップ・サスペンス。
 何人かの登場人物の視点が入れ替わる序盤の物語は話が進むとともに集約され、結末においては一本の線に繋がる伏線として上手い具合に構築されています。
 また、物語が本格的に動き出すまでには若干の時間はかかりますし、随所に用いられる確率論や量子力学の知識など、本来は決して平易なものではないのですが、序盤からの急展開に次ぐ急展開と圧倒的なリーダビリティにより、理数系に縁のない読者も問答無用で物語りに引き込まれるだけのパワーを本作は有しています。
 "ラプラスの魔"という概念を用いて説明されるケインの「能力」についても、荒唐無稽な上にそれを理解するには難解な部分が皆無ではないにも関わらず、作品世界においては一定のリアリティを持ち、展開にリズムをもたらす役割を果たしていると言えるでしょう。
 絶対的に揺るがない、そして明確に数字で表される「確率」というものを操る「神の領域」すらを描く反面、その全てを左右するのが一歩を踏み出す人間の意志や勇気であるという軸があることで、本作は読後感の良い第一級のエンターテインメントとなり得ているのでしょう。