菊池勇生 『螺旋に回転する世界』

螺旋に回転する世界 (ぶんか社文庫)

 連続バラバラ殺人事件の被害者となってしまった妻を喪い、失意の日々を過ごす健二の携帯電話に、死んだはずの妻の響子からの電話がかかります。その電話は、まだ彼女の生きているパラレル世界から繋がったものであることが分かりますが、そちらの響子にも連続殺人犯の魔の手が伸びようとしていました。健二はまだ生きている響子を救うために、特殊能力を持った探偵である小鳥遊司に依頼を持ちかけます。二つの世界を繋ぐ携帯電話を通して、それまでは見えなかった事件の真相が徐々に見え始めますが…。

 ドーピング探偵、パラレルワールドなど、いかにもライトノベル的なキーワードの並ぶ本書ですが、キャラクター主導で読むには些かの弱さも感じるものの、シリーズの第1作であれば、世界観やキャラクターの紹介編としての役割は果たしていると言えるでしょう。
 二つの世界同時進行で事件に関わる情報を集め、どちらかの欠けている情報がもうひとつの世界からもたらされるという組み合わせによる展開の仕方は成功していますが、終盤に差し掛かると一気に安っぽさが感じられる、作品内におけるリアリティの薄さは指摘できます。
 また、キャラクターにしろ用いられるガジェットにしろ、「どこかで読んだような」印象がある気がします。