『クリスマスのフロスト』 R・D・ウィングフィールド

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)
 田舎町デントンに赴任したクライブは、運悪く彼と組むはずだったアレン警部が入院したことで、マレット署長の頭痛の種である警部のジャック・フロストと組まされることになります。妻を亡くしてから人が変わったというフロストは、見るからに不潔でだらしのない男で、クライブはそんな男と組まされた自分の身を嘆きます。ですが、教会学校の帰り道で忽然と姿を消した八歳の少女の失踪事件に始まり、次から次へと事件が襲い掛かります。

 ワーカーホリックの癖に、私生活ばかりか勤務態度もだらしなく、実際にこんな人物が身近にいたらうんざりすることの方が多いだろうフロスト警部ですが、それだけにどこまでも人間臭く、そして一見していい加減な事件の処理の仕方にも、どこか彼の人柄が透けて見え、実に憎めないキャラクターとして作品の中心を担う存在感を示すことになっています。
 そして、予定外にフロスト警部と組まされる新人のクライブの未熟さや、警察署のマレット署長の鼻持ちならないさまも、どこか温かい眼差しでもって描かれ、登場する人物がとにかく魅力的であると言えるでしょう。
 ひとつひとつの事件がそれぞれの帰結を迎えていくと同時に、フロスト警部自身についても語られ、最初はだらしないだけで周囲には傍迷惑でしかない中年男の真実の姿が、「物語の主人公」としての過剰な装飾をされることなく、きちんと実体のあるものとして描かれる姿には好感が持てます。人として駄目な部分はあくまでも駄目なまま、しかしだからこそフロスト警部は魅力的なのでしょう。
 さらに、少女の失踪事件を皮切りに次々と波状効果の如くに起こる事件は、それぞれがきちんと納得のいくだけの作中におけるリアリティを持っており、複雑になりがちであろう本作のプロットを実にすっきりと描いた著者の力量をうかがわせるものになっています。
 物語の結末と冒頭とが自然な形で結び付く構成も良く、非常に完成度の高い作品であると言えるでしょう。