大勢の子どもを攫ってきては、解体した肉を瓶詰めにしてキッチンの貯蔵庫に保存し、それを足の悪い主人に食べさせていた女。アップルパイが焼ける匂いが漂うキッチンで殺し合った姉妹。床下にいる他の者には見えない少女に語りかける、一人暮らしの年寄りを何人も殺した少年。幾つもの事件の記憶が残る、幽霊屋敷の物語。
惨たらしい事件が過去に幾つも起こっている、因縁めいた何かのある「幽霊屋敷」を描いた連作短篇集。
この屋敷を建てた人物の姪に当たる女性作家に対し、屋敷を見たいと訪ねて来た客が、そこで起きた様々な事件や怪異をナビゲートする冒頭の一編で幕を開け、そこから各編にて、屋敷に染み付く幾つもの過去の記憶が物語られます。さらにはそれらの過去と、女性作家の入居の「現在」を繋ぐ一編、そして女性作家の書いた「小説」を読む人物のモノローグで語られる終章が付され、実に端正な構成で本書は綴られます。
本作において「家」という限定された空間は、物語の舞台ではなく主人公そのものであり、幽霊譚と言うよりはゴーストストーリーといった言葉の似合う、恐怖よりも暗い美しさを見せる、恩田陸らしいどこか欧米の映画的な空気を持った物語となっています。