冲方丁 『微睡みのセフィロト 』

微睡みのセフィロト (ハヤカワ文庫JA)
 要人である経済学者が、"感応者"(フォース)と呼ばれる特殊能力者の力を用いて"混断"されるという事件が起こります。"感覚者"(サード)の捜査官パットは、派遣されてきた"感応者"の少女ラファエルとともに事件の解決に向けての捜査を開始しますが、敵は彼らに襲い掛かります。

 人類の中から現れた特殊能力者と旧人類の間の確執、それが原因で起こった戦争経験を踏まえて彼らを管理する世界の体制などの世界観が、"感覚者"(サード)パットの視点から、敵対すべき存在である"感応者"(フォース)のラファエルというヒロインの存在を見つめることで描かれます。
 ただし、後に発表するマルドゥック・スクランブル以降の作品と比べれば、いかんせん作品世界を書き込むだけの十分なボリュームは不足している感は否めません。
 それでも魅力的な世界観と人物、そして独特のテンポの良さを持つ著者の作風は短いながらもこの作品の中に見て取ることが出来るでしょう。