石持浅海 『攪乱者』

攪乱者 (ジョイ・ノベルス)

 政権を転覆させることを企てるテロ組織に身を置く「久米」「宮古」「輪島」の三人は、彼らの上司である「入間」の指示で、不可解なミッションをこなしていきます。スーパーにレモンを紛れ込ませる作戦、夜更けに公園の砂場にプラスチックの粉末を混ぜて近くにアライグマを捨ててくる作戦、丸めた新聞紙を詰めた紙袋を電車の中に放置する作戦。これらの作戦が何故テロになるのか、理解に苦しむ三人に、組織のメンバーである串本は謎解きを披露します。ですが、ただ命令に従うだけではなく自ら考え始める彼らの行動は、次第に組織からの命令の範囲を超えたものを含むようになってきます。

 一見まるでテロ活動とも思えない作戦が、何故国家を揺るがす行為につながるのかという謎。これらは"風が吹けば桶屋が儲かる"的なロジックで解き明かされ、そのまま淡々とシリーズ短編が続いていくのかと思いきや、三人の構成員の視点が一巡したところで、彼らの立ち居地が微妙なものに変化していきます。
 当初は果たしてそれがテロに繋がっているのかもわからず、首を傾げながらも上からの命令に従っていた三人が、その行動の意味を考え、さらには組織の命令を超えたところにまで想いを巡らせるようになって行き着く結末は、何とも苦いものになっています。
 本作は、テロ行為という日常からかけ離れた行動の中に、日常の謎を持ってきて謎解きをしてしまう前半の短編集としての面白さに加え、中盤からは主人公ら三人と組織との関係性の複雑さがクローズアップされ、結末へと転がっていく長編の面白さの両方が味わえる一冊。
 結末の落としどころなどは必ずしも万人向けとは言えない部分もあるでしょうが、著者らしい癖の強さも、良いアクセントになっていると言えるでしょう。