J・D・ロブ 『過去からの来訪者 イヴ&ローク23』

過去からの来訪者 イヴ&ローク23 (ヴィレッジブックス)
 ニューヨーク市警に勤務するイヴのもとに、かつてある時期に彼女の里親をつとめたトルーディ・ロンバートという女性が面会に訪れます。ですが、事件の報道によって今のイヴを見つけ出したその女性は、里子であるイヴに対しては愛情ではなく狡猾な虐待をもって接し、過酷な幼年期を過ごした彼女に更なる苦痛を与えた人物でした。動揺し、トルーディを追い返したイヴですが、莫大な資産を持つ夫のロークのもとにもまたトルーディは訪れ、そしてその後、撲殺されたトルーディの遺体が発見されることになります。

 まだこんな過去があったのかというイヴの過酷な少女時代が本作でクローズアップされることになりますが、既刊のシリーズで散々描かれてきたトラウマ話とはまた違い、本作ではイヴを虐待した相手が「生きて」「目の前に現れ」ることが大きなポイントとなっています。
 それは、虐待を繰り返すトルーディという女性が持つ実に分かりやすい強欲さが、彼女の狡猾さによって周囲からは見えにくくなっており、そのことによってさらに現在進行形で起こっている事件の真相がもどかしいまでに捜査陣には把握できないという構造に表れます。
 事件の犯人についてはある程度慣れた読者であれば、割と早い時点でその素性にも予想が及ぶものなのでしょうが、本作においては被害者であり加害者でもあるトルーディ・ロンバートという女性の描き方が、長く続くシリーズ作品をマンネリから救っていると言えるでしょう。