ローズマリー・ハリス 『事件現場は花ざかり』

事件現場は花ざかり (イソラ文庫)

 都会でマスコミ関係の仕事をしていたポーラは、田舎町で園芸家として新たなスタートを切ります。そして、まだ知名度の低いポーラにとって、地元の有名な庭園の修復の仕事という大きなチャンスが舞い込みます。荒れ果てた庭園に気が遠くなるポーラですが、仕事に着手した途端、庭に埋められていた古い死体を発見してしまいます。かつてその庭園のある屋敷に住んでいた関係者のものではないかと推測される死体ですが、過去を調べるポーラの周りで次々と不穏な出来事が起こり始めます。

 個別の登場人物への掘り下げという部分では、ややあっさりしていて物足りない部分も皆無ではないものの、古典的なコージーミステリに不可欠な、個性的な登場人物や土地柄が強く出たコミュニティ内での事件の展開の面白さは十分に楽しめる作品。現代風の軽い読み味と、古典的なコージーミステリの風合いが上手い具合に融合している一作と言えるでしょう。
 それは、主人公のポーラ自身が、都会で時代の最先端ともいえる職業に就いていたという経歴と、古い庭園を修復するガーデナーという、どこか「古きよきもの」を感じさせる二面性を持っているということによっても作られ作品の空気なのかもしれません。廃墟となった屋敷の庭園から発見される遺体という、「過去の事件」の演出、そして現代と過去の事件が同時進行で展開するという手法もまた、古典的なミステリの空気を上手い具合に取り入れることに成功した要因でしょう。
 シリーズ作品としてすでに三作が上梓されているとのことなので、次作以降の翻訳も期待したいところ。