イアン・サンソム 『蔵書まるごと消失事件 移動図書館貸出記録1』

蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)

 アイルランドの片田舎で司書の職を得た青年イスラエルですが、彼を待っていたのは図書館閉鎖の張り紙でした。役所へ赴いたイスラエルは、担当者から移動図書館の司書としての仕事を任されますが、移動図書館に使うバスはボロボロ、住居として提供されたのは鶏小屋、挙句は蔵書として図書館が所有するはずの一万五千冊の書籍が全て消えているという現実でした。

 本の虫で人付き合いの苦手な青年が司書という夢の職業に就いて、ゆくゆくは大きな図書館での仕事をする夢を冒頭から打ち砕かれる本作は、これでもかというほどイスラエルに悲惨な現実を与えます。
 読み方によってはユーモラスな物語であるのでしょうが、どうにもイスラエルという主人公の鼻持ちならなさや、彼の視点によって野蛮で付き合いづらい住人として描かれる地元の人々が、「癖のある登場人物」というにはどうにも魅力を感じ難い描き方をされている気がします。
 また物語の主軸は、一万五千冊もの書籍が消失した謎にあるのかと思いきや、どちらかといえばアクの強すぎる登場人物や主人公の置かれた状況の悲惨さのエピソードにあり、些か冗長な印象も。
 また、事件の真相は物語内での齟齬はないものの、あまり良い意味でのサプライズを与えてくれるものとは言えないのではないでしょうか。これで人物に魅力を感じることが出来ればまだ救いはあるのでしょうが、個人的にはあまり合わなかったなという1冊。