恒川光太郎 『竜が最後に帰る場所』

竜が最後に帰る場所
あけた人の言うことをきく精霊を閉じ込めたビンを持っているというマミさん。彼女との不愉快なやりとりにちょっとした意趣返しを試みたものの、彼女が話したビンのことが主人公の脳裏をよぎります(『風を放つ』)。
母親が連れてきた男による虐待の過去をもつ主人公は、かつて自分を虐待した男に関わりを持つ少女の描き出す幻想世界を利用して、狂気に追い込んでの復讐を目論見ます(『迷走のオルネラ』)。
冬の夜中に聞こえる≪夜行様≫の歩く音。その音の聞こえる晩には外へ出てはいけないという祖母の言いつけをやぶり、どこかへと向かう集団に加わった主人公の行く先とは(『夜行の冬』)。
ポストであったりピアノであったり、自然にそこに存在しているかのように「偽装」している「偽装集合体」を見抜き、それを解放する能力を持ったアサノと名乗った人物。彼に集合を解かれてしまった男であった意識は鸚鵡(オウム)に姿を変え、ある島へと辿りつきます(『鸚鵡幻想曲』)。
水の中の卵から孵化し、自分よりも大きな生き物に捕食されることを逃れて成長した生き物はやがて陸に上がり、「ゴロンド」という名を与えられます。食物連鎖の最底辺から生物としてのステップを上がって成長して巣立ちの時を迎えたゴロンドたちが、いつか帰る場所を探し求める物語(『ゴロンド』)。

 これまでの恒川作品よりも、やや現実寄りに位置する『風を放つ』で幕を開ける本書は、最初のこの一編ではその存在だけを意識させた恒川作品らしい「異界」が、作品を経るごとに濃密な存在感を増してくる構成となっています。その意味では、これまでの作品よりも現実の日常に近い世界も描かれるものの、その「日常」の中にある座りの悪さのようなものが、より一層の異界感を演出することとなっている面も指摘できるかもしれません。
 徐々に色濃くなってくる異界は、『夜行の冬』に至り、恒川作品らしい土着の世界のすぐ裏側に位置する「異界」を描き出し、最後の一編である『ゴロンド』において、本書のタイトルとなった『竜が最後に帰る場所』では、色鮮やかなファンタジー性を見せてくれる世界へと辿りつきます。
 一編一編を見れば、ややまとまりのない雑多な短編の集まりにも思えるものの、全てを読み終えてみれば確かに著者らしい異界の存在を孕んだ空気感が一貫して書き込まれた作品集であると言うことが出来るでしょう。