湊かなえ 『往復書簡』

往復書簡

 高校時代の友人同士の結婚式に出席し、久しぶりに集まったグループの中の欠けた一人。彼らの間で何があったのか。退職した女性教師の頼みで、ある悲劇的な事件の当事者となってしまった教え子たちの「現在」を知ろうとする青年が目の当たりにする事実とは。そして遠く離れた外国に行ってしまった恋人との手紙のやり取りから、少しずつ明らかになる封印された過去。「往復書簡」という、手紙のやり取りだけであきらかになる過去の出来事と、そして現在から将来に繋がる帰結の道筋の物語。

 デビュー作『告白』からの路線と手法を継承し、従来どおり間接的な視点・主観の移動により、そこにあった真実を多角的な視点から描き出した作品集。
 同じように「手紙」というツールを用いながらも、『告白』よりも静かで穏やかな空気が漂うのは、ひとつには『告白』が事件の当事者の血を吐くような叫びが叩きつけられた「手紙」であったのに対し、本作で綴られる手紙は互いのキャッチボールが続く「往復書簡」がメインであるということでしょう。
 これまでの既刊作品よりも、あからさまなまでにセンセーショナルに人間の悪意を暴く描き方をしないことで、本作は小説としての精度を上げていると言えるかもしれません。