紅玉いづき 『毒吐き姫と星の石』

毒吐姫と星の石 (電撃文庫)

 占いが全てを決める国ヴィオンの皇女として生まれたものの、毒と呪いを吐く「毒吐き姫」として捨てられたエルザ。ですが、捨てられて下町で育った彼女は、ある日突然に皇女として同盟国に嫁がされることとなります。口汚く占者たちや国を罵り、呪いの言葉を吐き続けるエルザは、魔術によって言葉を封じられたまま、レッドアークの呪われた異形の王子クローディアスのもとへと送られます。ですが、魔力に満ちたクローディアスに触れ、エルザの言葉を封じる術が消えたことで、再び彼女は手当たり次第に全てのものに対して毒を吐きはじめます。

 占いによって理不尽な生い立ちを強いられたエルザが、またもや国の勝手な思惑から彼女の意思を踏みにじられる、怒りから始まる物語。
 デビュー作『ミミズクと夜の王』の物語を経たレッドアークでは、エルザの撒き散らす怒りを受け止めるだけの土台が出来ており、彼女の叫ぶ「どうしてあたしが!」というひとつひとつの怒りに対し、真摯にそれを受け止めて包み込もうとする登場人物たちがいます。本来であれば当然与えられるはずだった、一人の人間としての尊厳が、やがてエルザに取り戻される物語としての本作は、エルザがどれだけ激しい怒りと敵意をむき出しにして口汚い罵りの言葉を吐こうとも、それをきちんと受け止める人間たちがいることで、どこか優しい空気を持った御伽噺とも呼べる作品になっています。