谷原秋桜子 『鏡の迷宮、白い蝶』

鏡の迷宮、白い蝶 (創元推理文庫)

 シリーズの前日譚の短編集、第2作目。
 水島のじいちゃんの代理として西園寺家を訪れた修也は、そこで一人娘のかのこの縁談の相手との会食に同席することを余儀なくされてしまいます。何とか「厨房の手伝いとして」ということで、気まずい席にいることは逃れた修也ですが、西園寺家のシェフが腕を振るう食事の席で、思いも寄らぬ事件が起きます。(『イタリア国旗の食卓』)
 直海の知人の落語家が、昇進をめぐって争う立場にある兄弟子と一緒に落語の会をする蕎麦屋に、美波は直海とともに出かけることになります。その店の丼に少年があるものを隠したのを目撃した美波ですが…。(『失せ物は丼』)
 西園寺家のかのこ嬢が縁談の相手の別荘に呼ばれ同行することになった修也ですが、別荘の隣の家にダイヤモンドが隠されているらしいという話を水島のじいちゃんから聞かされます。ダイヤのありかを示すヒントは「2 36」という文字列だと言いますが…。(『鏡の迷宮、白い蝶』)
 友人の直海とともに、日本手妻の舞台を見ることになった美波ですが、その舞台に立った少女が母親から叱られている場面に出くわします。彼女から、舞台で述べる口上のことで叱られたことを相談されますが、その口上の何が悪かったのか皆目検討が付きません。そしてこの謎を水島のじいちゃんにもちかけたところ、美波たちは思いも寄らぬ推理を突きつけられます。(子蝶の夢)
 自分の寿命のことで弱気なことを口にする水島のじいちゃんに不安を抱きつつ、隣家の娘の美波の存在と、彼女らが出くわした先日の一件を聞かされた修也は、確信を持ってある推理を口にします。(『二つの真実』)

 上記五編が収録された本書では、その作品の重要なキーワードを次の短編につなげるという、趣向を凝らした連作短編集の構成がなされています。一作一作それぞれ捻りの利いたトリックが、安楽椅子探偵をつとめる水島老人によって穏やかに紐解かれる、日常の謎系の作品集。
 さらには、作中では見事な探偵振りを発揮する水嶋のじいちゃんを間に置いて、修也とかのこサイドの物語、美波と直海サイドの物語が交互に配置され、まだ出会っていない二組の登場人物たちが成長を見せ、本編に向けて彼らがいずれ出会うことを予感させると同時に、やがて訪れるひとつの別離の予感をもさせます。
 ここからシリーズの第1作までの空白時間、そして中断しているシリーズの今後への期待が高まる1冊でした。