黒猫ありす 『シュアンと二人の騎士』

シュアンと二人の騎士 (講談社X文庫―ホワイトハート)
 目の前で母親を惨殺されていらい廃墟で一人暮らしていたユイの前に、母を殺した男と同じ鐘を持った二人の人間が現れます。二人に保護をされ、隕石獣と呼ばれる凶暴な獣を狩り、国を復興するために戦っているという彼ら「正義の鐘」の拠点に向かったユイは、そこで幼い頃に姿を消した父親と、そして自分自身の素性を知ることになります。

 幼いユイの前で起こった悲劇での幕開けと、ユイの母の仇と同じ特徴を持つ存在という導入部は非常に魅力的な作品。
 ただし、世界構築そのものがどうにも杜撰な部分があり、結末近くで突然この世界で起こっている物事の真相に関わる存在がぽっと出てくるような辺り、物語世界としてのリアリティを提示し切れていない面は指摘できるでしょう。
 また登場人物に関しても、その行動の背景にある心の動きに説得力を持たせるだけの書き込みがなされているかといえばそれも不足しており、詰め込んだ様々な要素がことごとく未消化に見えてしまうのは残念。
 冒頭部分ではそれなりに期待を持たせる空気があるだけに、勿体無いなという印象。