河上朔 『楽園のとなり』

楽園のとなり (Regalo)
 王立騎士団に入団するための試験に、不幸なアクシデントが続いて三度も失敗している少女カンナは、四度目の受験に備えて日々努力を続けていました。ですが試験の一ヶ月前、外街の自警団を辞したカンナは、帰り道で行き倒れている少年を拾います。シンクと名乗ったその少年は、頑なに事情を話そうとはしないものの、複雑な事情を抱えて何者かに狙われているようで…。

 いくら望んで、そしてそのための十二分の努力をしても報われない。運が悪いという言葉では済まされないような境遇にあっても、決して腐らずに、前向きでいる強さを失わない主人公のカンナに好感の持てる作品。
 その状況で何故信じることをやめずにいられるのかと言いたくなるようなカンナと、何故そうも頑なに信じようとしないのかというシンクとが出会い、二人がそれぞれに何かを得て成長していく物語である本作は、読後感も爽やかなものとなっています。
 作中で語られる農夫と神の物語の挿話に、シンクとカンナは全く異なった解釈を示します。この農夫の物語を挟んだ二人のあり方と、その先にある結末の持って行き方には、この挿話の使い方の上手さを見て取ることが出来るでしょう。
 どれだけ努力しても上手くいかずとも、そのことで余儀なくされる苦労や回り道は決して無駄ではないと言い切れる前向きさを描いた本作では、そのテーマが実にダイレクトに伝わる一作となっています。
 取り立てて強烈なインパクトはないものの、だからこそひたむきさが伝わる作品といえるかもしれません。