北山猛邦 『私たちが星座を盗んだ理由』

私たちが星座を盗んだ理由 (講談社ノベルス)
 憧れの先輩に近付くために、ある偶然から恋の「おまじない」に夢中になり始めた少女を描く「恋煩い」。外界から隔絶された島で「妖精」になるために生活する子どもたちの中で、新入りのヒバリが見た現実を描く「妖精の学校」。借金の支払いに追い詰められた青年が、偶然拾った携帯電話で振り込め詐偽を画策するうちに、電話の持ち主が故郷に残した彼女に対しても心を動かされる「嘘つき紳士」。怪物に石にされた少女を想い続け、彼女が元の姿に戻れるかもしれないという可能性に賭ける少年を描く『終の童話』。二十年前の七夕の日に、夜空から首飾り座を消した少年と、病床にある少女の姉、そして少年を恋い慕うかつての少女だった主人公の回顧の物語『私たちが星座を盗んだ理由』。

 爽やかだったりファンタスティックだったりノスタルジックだったりの物語が、それぞれの結末では一気に苦さに変わる短編集。どれひとつとしていわゆる「ハッピーエンド」ではないのですが、それが必ずしも嫌な読後感とも言い切れず、その「苦さ」を味わうのが本書といえるでしょう。
 そこでは、丁寧で繊細さを感じさせる心理描写と、シンプルなロジックで構築される謎とのバランスの良さも感じさせられます。これまでは大掛かりな物理トリックまずありきで、トリックのために作品世界を構築するような傾向の作品が多かった著者の、新たな一面を見ることが出来る一冊とも言えるでしょう。