福田和代 『TOKYO BLACKOUT』

TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)
 電力会社の鉄塔三ヶ所が次々に破壊されるという前代未聞のテロ行為で、翌日の電力供給が逼迫するという事態に追い込まれます。ピンポイントで重要な鉄塔を狙った攻撃や、システムへの侵入など、警察はその日突然行方をくらませた電力会社に勤務する一人の男を容疑者として追うことになります。そして電力会社では、真夏の電力需要が供給を上回り、大規模停電になることを回避すべく、輪番停電を実施することになりますが・・・。

 地域独占の電力会社に支えられる社会の脆い一面を描いたクライシス・ノベル。
 東北での地震による原発停止での電力供給の逼迫、輪番停電、そして生活のあらゆるものに電気が使われるからこそ、大規模停電が起こった際のダメージの大きさなど、東日本大震災後の現在だからこそ実感を持って感じられるあれこれが、2008年に刊行された本書では驚くほど現状に酷似する形で描かれます。
 さらに本作では、これらの綿密な調査によるシュミレーションという土台の上に、登場人物の一人一人の人間ドラマがリアリティを持って展開されることになります。
 病院のICUで生命の危機にさらされる娘を持ちながら、停電を引き起こした犯人を追う刑事の周防の葛藤をはじめ、テロ行為を実行する犯人たち一人一人の人生があり、そこに描かれる人間や、彼らによって展開される物語に厚みを与えていると言えるでしょう。
 また本作では、主として次々に犯行を遂行していく犯人と、それを追う警察という両者が物語の中心になりますが、その裏には著者の『リブート』で描かれていたような、技術者の一見地味な物語もあったのだろうことをリアルに想像することが出来ます。
 「世の中と人々の暮らしを支える、<名もなき>人々を描くのが好きです。」という著者のあとがきにあるように、圧倒的なヒーローではなく、小さき個を描いたからこそのスタンスが非常に好ましい作品でした。