畠中恵 『おまけのこ』

おまけのこ (新潮文庫)
 妖たちですら関わることを拒む「狐者異(こわい)」。長崎屋に現れてそこに居合わせた者たちに混乱を与える狐者異ですが、誰からも拒絶されるその存在に、若だんなの一太郎は心を痛めます(『こわい』)。
 長崎屋を訪れた際に、印籠を持ち帰ってしまった紅白粉問屋の孫娘のお雛。眠りに付いた彼女の元に、印籠の持ち主である長崎屋に棲み付く付喪神の屏風のぞきが現れますが、お雛はそれを夢だと思い心に引っかかっている悩みを打ち明けます。病的にまで白粉を塗りたくる彼女をそのまま受け入れてくれる婚約者に、素顔に近い薄化粧姿を見せるようにと屏風のぞきは言いますが…(『畳紙』)。
 病弱で寝付いてばかりのため、一緒に遊ぶ友達もいなかった長崎屋の若だんな一太郎の五歳の頃。江戸の町には、飛縁魔という妖が現れるという噂が流れる中、「影女」を見たという子どもたちが相次ぎます。数少ない友人の栄吉と影女を探すことを手伝う一太郎は、影女の行動の裏にあるものに気付きます(『動く影』)。
 吉原の楼閣にいる禿(かむろ)を足抜けさせるのだと、若だんなの一太郎はある奇策を講じます。事情を問い質した手代たちや父親とともに当日に吉原へ向かった若だんなですが、思わぬ事態が起こって…(『ありんすこく』)。
 娘の婚礼を控えた天城屋は、娘のために真珠を使った櫛を職人に作らせることにしましたが、訪れた長崎屋で櫛職人が何者かに襲われ、高価な真珠が消えてしまいます。消えた真珠に関しては長崎屋に棲み付く鳴屋が絡んでいることを直感した若だんなの一太郎ですが…(『おまけのこ』)。

 これまで以上に、妖たちにスポットライトをてた作品が印象的な短編集。
 表題作の『おまけのこ』では、小さな冒険をすることになる鳴家の愛らしさと、外の世界で災難に見舞われた鳴家を声だけで「うちの子」と断言する若だんなとの絆が、何とも心温まる一作となっています。
 その一方で、頭の「こわい」では、いかに情を尽くしても歩み寄れない存在がいるという、苦さもまた寓話的に描かれます。
 謎解き要素はこれまでの既刊作品と比べて薄いものの、妖と人間、それぞれの登場人物たちの心情を細やかに描いたシリーズ短編集。