畠中恵 『うそうそ』

うそうそ (新潮文庫 は 37-5)

 箱根に湯治に出かけることになった若だんなですが、いつもは過保護で若だんなから離れない二人の手代の兄やたちと何故かはぐれたのを皮切りに、宿からはさらわれる、山中では天狗に襲われるなど、次々に災難が降りかかります。

 シリーズ第1作以来の長編ということで、これまでで一番エンタメ色の強い1作と言えるかもしれません。急展開に次ぐ急展開、そして入り混じる複数の者たちの思惑が若だんなへと向けられ、事態は混迷を深めることになります。
 同時に、物語世界に在る登場人物それぞれの個という部分での書き込みがなされ、物語に深みを与えているということが言えるでしょう。「駄目な自分」への葛藤というものが、若だんなと山の神の娘の比女と、二人それぞれへ同じ葛藤を持たせることで、より克明に浮かび上がります。