畠中恵 『ちんぷんかん』『いっちばん』

ちんぷんかん (新潮文庫)いっちばん (新潮文庫)

 シリーズ6冊目。ついに若だんなが三途の川まで行く冒頭の『鬼と小鬼』で幕を開け、命の儚さを二重構造で描いた『はるがいくよ』で終わる1冊。
『はるがいくよ』では、先に逝くものと残される者の両方の立場にある若だんなと、彼を見守る二人の兄やの心情が何とも切なく描かれます。桜は散るからこそ美しい、というのは使い古された感もある表現ですが、この話ではそれが言葉以上の重みを持って感じられるでしょう。

 シリーズ7冊目の『いっちばん』では、これまでのシリーズを通しても描かれている、若だんなと妖たち、そして若だんなと幼馴染の菓子屋の跡取り息子の栄吉らとの繋がりというものが改めて一作一作に現れ、読んでいてホッと出来るような微笑ましい短編集に仕上がっています。巻数を重ねても一作一作が、どれもシリーズの世界の持ち味の良さを薄れさせることなく楽しめるという部分で、著者の力量の確かさをうかがえるものでもあるかもしれません。
 いわゆるライトノベル的な感じでの「キャラが立つ」ではなく、「ああ、この人は愛されるに足る人だなぁ」としみじみ感じるのがこのシリーズの若だんなだなと、つくづく再確認させられる一冊。